注意欠如・多動症(ADHD)
最近、テレビなどでよく聞く、注意欠如・多動症(ADHD)。
だいぶ知られてきたこともあり、相談いただくことも多いです。
こちらでは、ADHDの概要を説明いたします。
注意欠如・多動症(ADHD)とは
英語で、Attention-Deficit Hyperactivity Disorder、略して、ADHDと呼ばれます。
神経発達症(発達障害)の一つで、多動・衝動性と不注意症状が特徴です。
多動・衝動性と不注意のどちらの要素もある人もいれば、どちらかが目立つ人もいます。
最近の研究では、100人に5人くらいはADHDの要素があると言われています。
また、女の子に比べて、男の子の方が2~3倍多いのも特徴です。
ただし、女の子の場合、症状が目立ちにくいので、診断されにくいとも言われています。
ADHDの原因は
生まれつきの脳の機能の障害が原因と考えられています。
様々な研究で、前頭葉や頭頂葉、小脳などの機能障害が指摘されています。
中でも、前頭葉にある前頭前野という部分の機能が注目されています。
前頭前野は、人が行動する際に、司令塔の役割をする場所で、ドーパミンなどの神経伝達物質によって働きが制御されています。
ADHDは神経伝達物質の出方が不安定で、前頭前野がうまく働かない、と考えられています。
例えば、授業や宿題をするとき、ドーパミンが出て集中できればよいのですが、ADHDでは、これがなかなか出ないので集中できない。
一方で、ゲームや遊びのときはドーパミンが出すぎて集中しすぎてしまう。(結果、声をかけられても聞こえていない。次の行動に移れない。)
といった状態です。
前頭前野の機能(実行機能と報酬系)については、もう少し詳しく別のページで解説したいと思います。
ADHDの症状は
多動・衝動性
特に、幼児から小学校低学年くらいに目立ちます。
ちょろちょろしている、常に動き回っている、落ち着きがない、待てない、突然動き出す、と言われることが多いです。
迷子になりやすい、車道に飛び出す、どこに行くか分からない、など危険な行動となってしまうことも多々あります。
不注意
忘れ物や落とし物が多い、ぼーっとしている、いろんなことに注意が向いてしまう、集中力がない、などと言われます。
多動・衝動性に比べて、年長児(小学校後半から)で指摘されることが多いです。
もともと多動な子が、年齢が上がって落ち着き始めたころ、不注意症状が目立つことがあります。
一方で、多動は目立たず、不注意症状のみ見受けられる方もいます。特に女の子の場合に多いパターンです。
ADHDの診断は
DSM-5の診断基準
現在、米国精神学会が作成した、DSM-5(精神障害の診断および統計マニュアル 第5版)、という診断基準が最も使われています。
DSM-5には、不注意症状9つ、多動性および衝動性症状が9つずつ記載されており、それぞれ6つ以上当てはまれば不注意優勢、多動・衝動性優勢、どちらも6つ以上当てはまれば混合となります。
不注意症状)
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細部に注意を払わない,または学業課題やその他の活動を行う際にケアレスミスをする
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学校での課題または遊びの最中に注意を維持することが困難である
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直接話しかけられても聴いていないように見える
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指示に従わず,課題を最後までやり遂げない
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課題や活動を順序立てることが困難である
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持続的な精神的努力の維持を要する課題に取り組むことを避ける,嫌う,または嫌々行う
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しばしば学校の課題または活動に必要な物を失くす
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容易に注意をそらされる
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日常生活でもの忘れが多い
多動・衝動性症状)
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手足をそわそわと動かしたり,身をよじったりすることが多い
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教室内またはその他の場所で席を離れることが多い
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不適切な状況で走り回ったり高い所に登ったりすることがよくある
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静かに遊ぶことが困難である
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じっとしていることができず,エンジンで動かされているような行動を示すことが多い
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過度のおしゃべりが多い
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質問が終わる前に衝動的に答えを口走ることが多い
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順番を待てないことが多い
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他者の行為を遮ったり,邪魔をしたりすることが多い
さらに、DSM-5では診断をする上で、以下の点も確認するよう記載されています。
・これらの症状が少なくとも6か月以上持続している
・患児の発達水準から予測されるよりも著しい
・少なくとも2つ以上の状況(例,家庭および学校)でみられる
・12歳前に(少なくともいくつかの症状が)みられる
・家庭,学校,または職場での機能を妨げている
特に、最後の、”家庭,学校,または職場での機能を妨げている”、は重要です。
”実際の生活で支障をきたしている(困り感がある)”、といった方が分かりやすいかと思います。
例えば、幼稚園や保育園では、ずっと椅子に座っていなくてもそれほど目立ちません。
他にも椅子に座っていない子がいて、幼稚園生の”発達水準から予測される” 程度だからです。
一方で、これが小学校の授業となると、かなり目立ちます。
みんなが座っている状態で、どうしても出歩いてしまう。
友達や先生から注意され、本人も周りも困ってしまう(=実生活に支障をきたしている)状況です。
ADHDと診断し、本人に適した支援方法を考えていきます。
ADHDの支援・治療は
ADHDの支援・治療には、大きく分けて二つの方法があります。
心理社会的治療と薬物療法です。
心理社会的治療
①環境調整
本人の困り感がなるべく減るように、周囲の環境を工夫することです。
例えば、注意がそれやすい子には、一番前の席で他の刺激が入りにくくする、黒板の周りの壁の掲示物を減らす、などです。家では、宿題をするときに、宿題と筆記用具以外は机に置かない、といった工夫もあるかと思います。
②保護者の方への心理社会的治療
保護者の方へADHDの特性や関り方について学んでもらう機会のことです。親ガイダンスとも呼ばれます。
何人かの保護者の方に集まってもらう小集団が望ましいと考えられています。
ADHDのお子さんを持つ保護者の方は孤立しがちです。
一人で悩まず、みんなで悩むことで、新たな気付きやつながりが生まれることも大切です。
行動療法(※1)やペアレントトレーニングなど、プログラムを組んで行っている地域もありますが、診療の中では個別で説明をうけることが多いかもしれません。
ADHDの特性をよく知ってもらい、下にあげる行動療法を基本にした関わりができると、お子さんとの関りがよい方向に変わっていきます。
※1 望ましい行動を褒めて強化し、望ましくない行動は無視して減らすことが基本となります。子どもは、褒められると褒められた行動を繰り返します。一方で、怒られても、怒られた行動をまたやります。これを"強化"と言います。
褒められても怒られても、注目された行動が増え、逆に、無視された(注目されなかった)行動は自然と減っていきます。この特徴を使って、お子さんへより良い声掛けをして、より望ましい行動を増やすようにします。
③お子さんの心理社会的治療
診療や相談の中で、良いところを褒めたり、努力を称賛したりする支持的対応をすることで、お子さんとの関係性を築きつつ、困ったときの対応法などを検討します。
ソーシャルスキルトレーニング(※2)などを行っている施設や教育機関もあります。
※2 周囲(ソーシャル)とよりうまく関わっていくための技術(スキル)を身につけるトレーニングです。友達への接し方や気持ちのコントロールの仕方を学んだり、他人の気持ちを想像したりする練習をして、実際の生活がよりスムーズに過ごせるようにします。
④学校や園との連携
環境調整のために必須といえます。
ADHDのお子さんが実際にどのように生活しているか、どのような支援が可能かを共有します。
薬物療法
上記の心理社会的治療を行っても状況が改善しづらい場合に、薬物治療を実施します。
ガイドラインの治療の流れを下にお示しします。
ADHDの治療薬は現在、日本では4種類認可されています。
・メチルフェニデート(商品名:コンサータ)
・アトモキセチン(商品名:ストラテラ、アトモキセチン)
・グアンファシン(商品名:インチュニブ)
・リスデキサンフェタミンメシル酸塩(商品名:ビバンセ)
これらの薬は、ドーパミンやノルアドレナリン等の神経伝達物質の働きを助けることで、ADHDの症状を軽減します。
いずれも6歳から飲むことができます。
それぞれ、効果の出方や副作用が異なりますので、我々医師は十分に説明し、ご理解いただいた上で処方します。
保護者の方はもちろんのこと、学校や園の先生にも評価してもらい、治療の効果を確認しながら継続していきます。
それぞれの薬の特徴については、こちらのブログ記事を参照ください。
≪ADHDの治療・支援の基本的な流れ≫にある通り、薬物治療は心理社会的治療と同時に行います。
「薬物療法だけでADHD治療の目標が達成されることはまれであり、同時に施行する心理社会的治療との相互作用、あるいは相乗効果によって治療目標に到達することができる(ガイドライン参照)」からです。
このように様々なアプローチをしながら、なるべく生活しやすい環境を作ることで、ADHDのお子さんが成長し、自信をもてるようにすることが治療の目標です。
参考文献)
注意欠如・多動症-ADHD-の診断・治療ガイドライン 第4版
DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル