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限局性学習症(SLD)

限局性学習症(SLD)って何ですか

英語で、Specific Learning Disorder : SLDと表記されます。

学習障害(Learning Disorder:LD)とも呼ばれる、神経発達症の一つです。

知的発達全般に遅れがないにもかかわらず、勉強に関わる能力、具体的には、聞く、話す、読む、書く、計算する、推論する、といった能力のうち、特に苦手なものがある場合に疑われます。

教科書は読めるのに黒板をノートに写すのはとても苦手、とか、他の教科は問題ないのに算数の計算だけは苦手、といった状況です。

学齢期のお子さんの5~15%と言われており、男女比は、2~3対1で男児に多めです。

日本では、学校の先生を対象にしたアンケート(文部科学省2012)で、知的発達に遅れはないものの学習面で著しい困難を示す、と回答された児童の割合が4.5%と報告されており、SLDの方が含まれていると予想されます。

 

SLDの原因は何ですか

脳機能研究や遺伝子研究で、原因となる脳部位や候補遺伝子が報告されています。

他の神経発達症と同様、SLDの特徴を全て説明できるほどではなく、解明が続けられています。

 

SLDの症状は

症状の例を下に列挙しました。ただ、SLDの症状は多岐にわたりますので、あくまで一例としてご覧ください。

 

・字が書けない(ひらがな、カタカナ、漢字を含む)。

・字や文章を読む際に不正確になる(読み誤り、勝手読み等)、時間がかかる、意味が理解できない。

・黒板の板書を書き写すことができない。

・文字がマス目からはみ出てしまう。

・数字の大小が分からない。

・文章は分かるが計算式が分からない。 など

 

気を付けたいのは、SLD症状だけで医療機関を受診される方は少ないことです。

学校に行きたくない、とか、勉強や普段の生活への意欲が低下している場合にLDが背景に隠れていることが少なくありません。大人から見ると、本人のやる気がない、さぼっている、などと評価されてしまうことがあるので注意が必要です。

 

また、注意欠如・多動症(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD)などの神経発達症に、LDが合併していることが多いことも報告されています。

特にADHDでは、LDの合併率が30-40%といった報告もあります。

 

 

SLDの診断は

ASDやADHDと同様に、DSM-5という診断基準がよく使われます。

(少し表現が難しい文章があるので、簡単に書き直しています。)

 

限局性学習症の診断基準(DSM-5)

A. 学習や学業的技能の使用に困難があり、その困難を対象とした介入が提供されているにもかかわらず、以下の症状の少なくとも1つが存在し、少なくとも6カ月間持続していることで明らかになる:

  1. 不的確または速度が遅く、努力を要する読字(例:単語を間違ってまたゆっくりとためらいがちに音読する、しばしば言葉を当てずっぽうに言う、言葉を発音することの困難さをもつ)
  2. 読んでいるものの意味を理解することの困難さ(例:文章を正確に読む場合があるが、読んでいるもののつながり、関係、意味するもの、またはより深い意味を理解していないかもしれない)
  3. 綴字の困難さ(例:母音や子因を付け加えたり、入れ忘れたり、置き換えたりするかもしれない)
  4. 書字表出の困難さ(例:文章の中で複数の文法または句読点の間違いをする、段落のまとめ方が下手、思考の書字表出に明確さがない)
  5. 数字の概念、数値、または計算を習得することの困難さ(例:数字、その大小、および関係の理解に乏しい、1桁の足し算を行うのに同級生がやるように数字的事実を思い浮かべるのではなく指を折って数える、算術計算の途中で迷ってしまい方法を変更するかもしれない)
  6. 数学的推論の困難さ(例:定量的問題を解くために、数学的概念、数学的事実、または数学的方法を適用することが非常に困難である)

B. 欠陥のある学業的技能は、その人の暦年齢に期待されるよりも、著明にかつ定量的に低く、学業または職業遂行能力、または日常生活活動に意味のある障害を引き起こしており、個別施行の標準化された到達尺度および総合的な臨床評価で確認されている。17歳以上の人においては、確認された学習困難の経歴は標準化された評価の代わりにしてよいかもしれない。

C. 学習困難は学齢期に始まるが、欠陥のある学業的技能に対する要求が、その人の限られた能力を超えるまでは完全には明らかにはならないかもしれない(例:時間制限のある試験、厳しい締め切り期間内に長く複雑な報告書を読んだり書いたりすること、過度に重い学業的負荷)。

D. 学習困難は知的能力障害群、非矯正視力または聴力、他の精神または神経疾患、心理社会的逆境、学業的指導に用いる言語の習熟度不足、または不適切な教育的指導によってはうまく説明されない。

 

少し日本語訳が難しかったかもしれませんが、特に1~6に記載されている()内の具体的な症状が参考になります。

注意しなければならないのは、例えば読字の障害があっても、全く字が読めない訳ではない、ことです。

頑張って読めば何とか読めるけど、学年相応にはできない。

本人にとっては、「字を読むのが本当に大変。」「周りのみんなは何で簡単に読めるんだ。。。」

大人にとっては、「頑張ればできるのに、なぜやらないんだ?」「ふざけてやっているのかしら?」

と認識がずれたまま指導すると、お互いに負担が大きくなり関係が悪化します。

結果、不適応となってしまうことがあるため、周囲の大人が、SLDの状態をいかに早く把握できるかが重要です。

 

SLDの支援・治療は

・まずは周囲の大人の理解

SLDでは個々の症状に対して、個別の介入方法を検討します。ただし、病院で治療できることは限られるため、家庭や学校との連携が鍵です。

SLD症状を保護者と学校の教員に知ってもらう、理解してもらいます。

 

・個別の支援・対応

 支援や対応は個々のSLD症状に対して行うため、一般化された方法はありません。

 比較的頻度が多いと思われる支援方法・アドバイス例を列挙しました。

 ・プリントの文字を大きくする。

 ・マス目の大きいノートを使う。

 ・文字の練習や音読など、本人の苦手な宿題の課題量を減らす。

 ・プリントを配布し、黒板の書き写しを減らす(連絡帳や授業ノートなど)。

 ・絵や単語と関連付けてひらがなやカタカナを覚える。

 ・漢字を表す絵と一緒に提示して覚える。

 ・数を実際のものなどで示す。 etc

 

・代替手段の検討

 最近は、タブレット学習やレジュメの活用が増えているようです。

 書字が苦手な場合のワープロや、読字が苦手な場合のICレコーダーなど、様々な手段が考えられますが、学校の体制や状況に応じて相談が必要です。

 

・併存症の治療

特にADHDを併存する可能性が高く、環境調整や治療薬が有用な場合があります。

 

・二次障害の防止 

ADHDやASDと同様に、SLDでも二次障害のリスクが高いと考えます。

反復練習など、努力をしても結果に結びつかず、他のみんなとの差ができてしまうため、自尊心が低下し、結果、不登校や適応障害などをきたしている方が見受けられます。。

早期発見・早期対応によって、二次障害を防止する必要があります。

 

参考文献

DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル

 

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