自閉症スペクトラム(ASD)
自閉症スペクトラム(ASD)って何ですか
英語で、Autism Spectrum Disorder、略して、ASDです。
ADHDと並び、相談の多い神経発達症です。
人とのコミュニケーションの苦手さや、こだわり、反復する行動、感覚の過敏さといった特性があります。
最近の研究では、100人に2~3人くらいはASDの要素があると言われています。
女の子より男の子に多いことも特徴です。
ASDの原因は何ですか
ADHDと同様、生まれつきの脳機能の障害が特性の原因と考えられています。
脳機能研究では、前頭葉や頭頂葉、側頭葉、小脳、扁桃体など、様々な脳部位の機能障害が報告されています。
遺伝子研究で、神経の発達に関連する遺伝子の異常が一部で見つかっていますが、ASDの特徴を全て説明できるほどではありません。
まだまだ研究が必要です。
ASDの症状は
大きく以下のように分けられます。
①人とのコミュニケーション(やり取り)の苦手さ
視線が合いにくい、表情が乏しい、人見知りしない、名前を呼んでも振り向かない、親の後追いをしない、オウム返しが多い
空気が読めない、人との距離が近い、ひとりごとが多い、一人遊びが多い、ごっこ遊びをしない など
②こだわり・同じ行動を繰り返す
物の場所が変わるのを嫌がる、同じDVDを何度も見たがる、いつもと同じ順番(順路)でないと怒る
新しい場所(人)が苦手、同じ服しか着ない など
③感覚が過敏もしくは鈍感
大きな音が苦手、まぶしいのが苦手、においに敏感、水などが手につくのを嫌がる、注射を痛がらない など
④運動の苦手さ
体の動きがぎこちない、不器用、人のまねが苦手 など
これらの症状の種類や程度は、年齢によって変化していきます。
幼稚園の運動会、年少さんでは泣きっぱなし、年中さんで少し参加できて、年長さんには全部参加できました、なんて話はよく聞かれます。
ASDの診断は
現在、最もよく使われている、DSM-5という診断基準です。
AとBが症状です。
先ほど、「ASDの症状は」で記載した症状のうち、
①人とのコミュニケーション(やり取り)の苦手さ、はAに当たります。
②こだわり・同じ行動を繰り返す、と、③感覚が過敏もしくは鈍感、はBに含まれます。
③運動の苦手さ、は現状、診断の基準には含まれていません。
Cにある通り、ASDの特徴は幼児期から見られることも診断基準に含まれます。
そしてDです。
少し難しい言い回しになっていますが、要するに”実際の生活で支障をきたしている(困り感がある)”、という状況です。
(「ADHDの診断は」でも重要でした。)
ほとんどの人は、自分なりのこだわりがあります。
コミュニケーションが得意です、と自信を持って言える人の方が少ないと思います。
でも、大半の人は、うまく折り合いをつけたり、それなりに人と関わったりしながら、社会生活を送っています。
一方で、こだわりの強さやコミュニケーションの苦手さのために、社会生活が送れない場合、実際の生活で支障をきたしている、と判断します。
そして、ASDと診断し、みんなで手助け(支援)しましょう、というのが診断の基本です。
ASDの支援・治療は
ASDでは、本人の特性に合わせた、”支援” が非常に重要です。
様々な支援の中で、成功体験を積み重ねることで、成長と発達を促します。
①環境調整
ADHDと同様、本人の困り感がなるべく減るように、周囲の環境を工夫します。
例えば、順番や見通しが分かった方が動きやすい、視覚的に情報が入った方が理解しやすい、場合、
・園や学校でやることの順番を書いておく。(朝の会では「ごあいさつ」、「お名前を呼ぶ」、「歌を歌う」…など)
・できるだけ目につきやすい予定表にする。
・片付け箱には片付ける物の絵や写真を貼っておく。
などといった工夫をします。
もちろん、家庭でも、出かける前の準備、食事やお風呂の順番など、パターンをや見通しを立て、スムーズに生活できる工夫をします。
②療育
地域によってやり方は様々です。
基本的には、
・本人の特性を把握し、保護者の方へ適切な対応や環境調整をアドバイスする
・個別や小集団での運動やプログラムを通して、コミュニケーションや社会性を習得しやすくする
といった関りが多いと思います。
構造化された環境で成功体験を積んで成長し、より大きな集団でもよい経験と成長ができるようにします。
③教育や保育との連携
上に書いた環境調整の一環です。
ASDのお子さんが多くの時間を過ごす園や学校の環境は、成長・発達に重要です。
それぞれのお子さんの特性を、園や学校の先生に理解していただき、集団生活の困難さを軽減する方法を一緒に考えるため、情報の共有が有用です。
④ご家庭での関わり
園や学校と共に、ご家庭でもお子さんが多くの時間を過ごすため、お家での環境調整や関わりも大切です。
日常生活での成功体験が増えるよう、療育や診察で相談します。
お子さんと接する機会が多い分、保護者の方の悩みや大変さが大きいのは当然です。
困っていることは支援の対象ですので、ぜひ療育や診察でご相談ください。
⑤リハビリテーション
ASDでは運動が苦手な場合が多く、
大きな運動(立てない、走れないなど)に対して、理学療法
細かい運動(フォークが苦手、字を書くのが苦手など)に対して、作業療法
を行うこともあります。
また、様々な感覚がうまく処理ないために、落ち着きのなさや感覚の過敏さがある場合は、感覚統合訓練、が効果的なことがあります。
運動以外にも、発音の苦手さ(構音障害)や、どもり(吃音)といった症状に対して、言語聴覚療法を行います。
ASDの薬物治療
現時点で、ASDの根本的な薬はありません。
ASDの方の困り感に対処療法として行う薬物療法を紹介します。
①易刺激性に対する薬物療法
易刺激性とは、イライラしやすい、怒りやすいといった特徴のことです。
他者から見ればささいなことでも、ASDのお子さんにはとても気に障ることがあります。
頻繁に怒っていると、それ自体で社会生活に支障をきたしますし、環境調整にも限界があります。
そのようなとき、易刺激性に対して、
・リスペリドン
・アリピプラゾール
を使います。これらは、子どもを対象に治験を行い、ASDの易刺激性に対する治療薬として治療量も決められています。
②その他の薬物療法
基本的には、合併症に対する対処療法です。
・ADHD症状 → ADHD治療薬(メチルフェニデート他)
・眠りにくさ → メラトニン他
参考文献
DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル